胃痛とは
胃痛は、上腹部のみぞおち周辺に感じる痛みのことで、腹痛に含まれる痛みです。日々の生活の中で暴飲暴食や強いストレスなどによって、胃酸分泌過多、胃粘膜の防御機能低下などで胃粘膜が荒れたり、傷ついたりして起こります。よくある症状ですが、思わぬ病気が隠れている可能性もありますので注意が必要です。
胃痛の原因
食べ過ぎ、飲み過ぎ、激辛の刺激物などを摂り過ぎるといった食生活、ストレスや強い疲労などの精神的な要因などが胃痛の原因となります。
また、特に炎症などの器質的な病気が見つからない場合でも、胃の運動機能や知覚機能の一時的、あるいは慢性的な異常が胃痛の原因となることもあります。
ストレス
胃酸分泌亢進と胃粘膜防御機能のバランスを乱す
胃は、脳と密接に連携しながら働いています。胃を構成する筋肉は、平滑筋と言われる不随意筋で、自律神経によってコントロールされています。また、自律神経は胃の動きだけではなく、胃液の分泌などにも大きく関わっています。ストレスが強くなると、自律神経の交感神経と副交感神経の調整が乱れ、胃の過剰な運動や過剰な胃酸分泌などが起こり、胃痛の原因となってしまいます。特に胃酸分泌が過剰になると、胃粘膜の防御機能が低下し、粘膜が傷ついてびらんや潰瘍をおこしやすくなりますので注意が必要です。
食事
飲食物や嗜好品で胃粘膜が傷つくこともある
激辛料理を食べ過ぎることや、過度なアルコールやカフェインの飲み過ぎは、食品中の物質によって胃粘膜が直接刺激されて、傷や炎症が起こりやすくなります。また喫煙は、ニコチンの影響で血管が収縮して胃への血流低下につながり、その結果として胃粘膜の防御機能が低下します。
原因となる病態不明の場合も
胃痛や胃もたれといった症状があらわれているのに対して、検査をしても炎症や潰瘍、腫瘍といった病変が見つからない場合があります。この場合は、機能性ディスペプシアなどの病気や、様々な要因によって胃の運動機能や知覚機能が障害されていることが考えられます。
ピロリ菌
近年の研究で、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどの様々な胃の病気の原因として、ピロリ菌感染が大きく影響していることが分かってきました。特に日本では、胃がんの90%はピロリ菌が原因となっていることが分かっています。ピロリ菌は、正式にはヘリコバクター・ピロリと言う細菌で、自らアンモニアを作り出して胃酸を中和することで胃に棲みつきます。そして、アンモニアの毒素などの影響で胃粘膜に悪影響を与え続けるため、様々な病気の原因にもなっています。ピロリ菌感染が確認されたら、除菌治療を受けることが大切です。
胃の"攻撃"と"守り"のバランスの崩れ
胃酸や酵素が混ざった胃液は、様々な食物をドロドロに溶かして、腸で消化吸収されやすい形にしています。胃粘膜は、自身が胃液によって溶かされてしまわないよう、特殊な粘液を分泌しています。通常は、この胃液と胃粘液のバランスが保たれ、胃粘膜が障害されることはありませんが、ストレスや暴飲暴食、アルコール、薬剤、喫煙習慣などによってこのバランスは崩れやすくなり、胃粘膜が炎症して胃痛が起こります。
胃痛の症状とタイプ
胃痛は、上部消化管疾患の代表的な症状です。そのため、様々な病気で胃痛があらわれます。
胃痛は、必ずしも病気の重篤度と比例しない部分もあり、個人差もあります。
胃酸が影響するタイプ
何らかの要因から胃酸の分泌が過剰になると、胃粘液の保護機能が追いつかなくなり粘膜に炎症が起こります。食間や食前などの空腹時にキリキリ、シクシクと表現されるような痛みがあらわれることが多く、薬剤性の胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などが症状の代表的なものです。
胃痙攣(いけいれん)が影響するタイプ
胃を構成する筋肉が異常に緊張し痙攣することがあります。胃炎や胃潰瘍などの他、膵炎などでも起こります。また、ストレスなどが原因で起こることもあります。キューっとした痛みが特徴で、吐き気などがあらわれることもあります。
胃腸機能低下が影響するタイプ
胃は、食べ物が入ってくると消化のために食物を溜め込む適応性弛緩、食べ物の消化が終わると胃の下部を収縮させて小腸へ消化物を送り出す胃排出能といった運動機能と、空腹・満腹、痛みなどを感じる知覚機能があります。胃粘膜になんらかの病気が見当たらなくても胃痛などを感じる場合は、胃の運動機能や知覚機能が様々な外的要因によって障害されている可能性があります。主な病気は、機能性ディスペプシアや非びらん性胃食道逆流症などです。
医療機関を受診すべき胃痛チェックリスト
- 常に胃の部分に激しい痛みがある
- 胃の痛みが背中にまで及んでいる
- 最初はみぞおちが痛んでいたのに時間とともに痛む場所が移動している
- だんだん胃の痛みが激しくなってきて改善しない
- 胃の痛みに伴って、吐き気や嘔吐、発熱などの症状がある
胃痛の症状を伴う病気
急性胃炎
急激な胃粘膜の炎症が起こる病気で、キリキリとした胃痛に加えて、膨満感(胃が重たい)、胸やけ、吐き気などの症状を感じることもあります。
ウイルスや細菌感染、ストレス、お薬の副作用などが主な原因です。
慢性胃炎
胃粘膜に炎症が長期間続いている状態です。粘膜が炎症によって傷つき、しばらくすると修復することを繰り返すと、やがて粘膜そのものが変質し、萎縮してしまうことがあります。この状態を萎縮性胃炎と言います。さらに、胃粘膜の円柱上皮が腸粘膜の扁平上皮に変わってしまう腸上皮化生が起こると、胃がんのリスクが増すという報告もあります。ほとんどがピロリ菌感染によるものですが、ストレスや食生活から来ることもあります。一般的に急性胃炎より症状が弱いことが特徴ですが、胃痛に加え、吐き気や胸やけ、膨満感や胃もたれなどの症状があらわれることもあります。
逆流性食道炎
強酸性の胃酸や消化酵素などが混じった胃の内容物が、食道に逆流してなかなか戻らずに食道内に滞留してしまう状態が胃食道逆流症です。胃痛や胸やけ、げっぷ、呑酸などの様々な症状があらわれるのが特徴です。その中で、胃液によって食道粘膜が炎症を起こしてしまっているのが逆流性食道炎で、激しい症状があっても食道粘膜に病変があらわれていないものを非びらん性胃食道逆流症と言います。
加齢などによって、胃と食道を隔てる噴門を閉じている下部食道括約筋が緩み、食道裂孔へ胃の上部が飛び出してしまうことで起こる食道裂孔ヘルニアや、腹圧のかかる前屈みの姿勢が続く仕事、ベルトやガードルなどによる腹部の締め付け、肥満などによって起こるとされています。
胃・十二指腸潰瘍
強酸性の胃酸や消化酵素などで胃粘膜自身が溶けてしまわないよう、胃粘膜は特殊な粘液を分泌して粘膜を保護しています。通常は、この保護機能と胃液の攻撃因子はバランスをとって働いていますが、何らかの理由でバランスが崩れ、胃液が分泌されすぎたり粘液が分泌されにくくなったりすることがあります。それによって、胃粘膜は胃液の攻撃を受けてしまい、やがて粘膜が傷つき潰瘍が起こります。一方、十二指腸では、消化を助けるために膵液や胆汁が注入されますが、これらはアルカリ性なことから通常は胃酸の酸性と中和して十二指腸粘膜を守っています。しかし、胃酸の分泌が過剰であったり膵液や胆汁の供給が少なかったりした際に、十二指腸粘膜が障害され潰瘍が起こります。十二指腸の腸壁は薄くできており、穿孔の危険性が高いことが知られていますので、早期発見が重要です。
一般的に、胃潰瘍の場合は食後に胃が痛み、十二指腸潰瘍の場合は食間・食前の空腹時に痛みが発生することが多いです。しかし、進行するとどちらも常に痛むようになります。
胃痛の検査
問診や触診などで、どのような原因で痛みが起こっているか確認します。それぞれの状態に応じて、必要な検査を行い、原因を特定して治療方針を検討しています。
腹部超音波検査
検査したい部分の体表に医療用ジェルを塗って、プローブと呼ばれる装置を体表から当てる侵襲のない検査です。妊娠中の胎児の様子を確認するためにも使われるような安全な検査で、消化管の位置の確認や胃カメラ検査などが使えない膵臓や胆嚢、肝臓といった消化器の状態を確認します。当院では、超音波検査をご希望の際はご予約の上、当日朝食を抜いてお越しください。
血液検査
血液の状態、炎症の有無、感染の有無、肝臓や胆嚢、膵臓などの状態を確認します。また必要な場合、各種腫瘍マーカーなども確認します。
胃カメラ検査
スコープと呼ばれる細くて小さい検査装置を、口や鼻から入れて、装置の先端についたカメラによって、喉、食道、胃、十二指腸の粘膜の状態を詳細に観察することができる検査です。炎症の有無や状態、範囲、ポリープの有無、腫瘍などの疑わしい病変の有無などを、細かく観察できるだけでなく、出血があれば止血処理を行ったり、疑わしい組織を採取して病理検査を行ったり、アニサキスを摘出したりなど、検査、診断、処置などが一度にできる有用な検査です。当院では、日本消化器外科学会に認定された経験豊富な医師が、迅速で苦痛の少ない丁寧な検査を実施していますので、安心してご相談ください。