- 吐き気・嘔吐・えずくとは
- 消化器が刺激されて出る嘔吐
- 平衡感覚に関わる吐き気や嘔吐
- 吐き気を感じる中枢を刺激する嘔吐
- 吐き気・嘔吐・えずく症状が起こるときの検査
- 吐き気・嘔吐・えずく症状が起こるときの治療
吐き気・嘔吐・えずくとは
嘔吐とは、胃が急激に収縮し、胃や十二指腸などの内容物が口から勢いよく排出されることです。吐き気とは嘔吐してしまいそうな不快な感覚を言います。これらを総称して、一般的には「おえっとする」「えずく」と表現することもあります。
嘔吐は、消化器やその他の臓器、脳自体に何か問題が起こったときに脳の嘔吐中枢が刺激されることなどで起こり、消化器のどこかに炎症が起こっている、食道から肛門までの消化管内に狭くて通りにくい場所がある、体内に有害なものが入った、喉や気管などに異物がつかえてしまったなどの他、めまいや乗り物酔いといった平衡感覚への刺激、脳血管障害や脳腫瘍などによる脳の嘔吐中枢への刺激、心筋梗塞などの冠動脈障害、ストレスなどの心因的な原因などで起こることもあります。中でも一番多いのは、消化器の病気によるもので、吐き気・嘔吐といった症状をあらわす病気の7割程度は、消化器の病気によると言われています。例としては、急性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がん、膵炎、感染性腸炎、虫垂炎、腸閉塞など炎症や内腔狭窄によるものが挙げられます。
またその他にも、抗がん剤など服用しているお薬の副作用によるものや、妊娠初期の悪阻(つわり)によるものなども考えられます。
このように、吐き気・嘔吐を起こす原因は幅広く、中には緊急の治療を要するような重篤な病気も含まれます。そのため、吐き気・嘔吐があらわれている場合は、原因を正確につきとめることが大切です。そのためにも、以下の点を確認しておくようにしましょう。
- 腹痛や胃痛を伴っていないか
- 突然の激しい頭痛を伴っていないか
- 胸の痛みを伴っていないか
- 嘔吐物に血液が混じっていないか
消化器が刺激されて出る嘔吐
急性胃炎
突然、胃に炎症が起こってしまった状態です。症状としては胃(みぞおち付近)の痛み、胃の張り、胸やけなどに加えて、吐き気が起こることもあります。また、炎症が激しくびらんが広範囲にわたる場合は、出血して下血することもあります。原因は、胃酸と胃粘膜を防御する粘液のバランスが崩れることが多く、発症要因として最も多いのはNSAIDsやステロイド薬などの副作用によるものです。また、お酒の飲み過ぎやストレスによるものなども影響します。
急性胃炎が疑われる場合、胃粘膜の状態を調べるためにも胃カメラ検査が有効です。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
胃・十二指腸潰瘍は、胃や十二指腸の粘膜が胃酸の刺激によって傷つき、局所的に粘膜層より深い部分までえぐれてしまった状態です。症状は胃(みぞおち)の痛み、胸やけ、げっぷ、吐き気・嘔吐などで、進行すると血管が破れて胃酸が混じった真っ黒な黒色便の下血や吐血が起こることもあります。
原因の多くはピロリ菌感染による粘膜の変化ですが、その他に近年話題になっているNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の飲み過ぎによるもの、ストレスによるものなどが考えられます。
ここでも胃カメラ検査によって粘膜の損傷の状態を確認することが大切です。
胃がん
胃にできるがんです。早期のうちはほとんど自覚症状がなく、進行すると腹痛、吐き気・嘔吐、膨満感などがあらわれます。原因の多くはピロリ菌感染によるもので、日本では90%以上、世界でもWHOの発表によると80%はピロリ菌が原因となっています。
日本では、常に胃がんはがんの罹患者、死亡者で上位にあったため研究も進み、胃カメラによってごく早期の胃がんを見つけ、胃カメラだけの治療でも完治できるようになっています。そのため早期発見やピロリ菌除菌が大切で、定期的な胃カメラ検査が推奨されています。
虫垂炎
盲腸の先端に紐のように細く飛び出している虫垂に炎症が起こっている状態です。早期にはみぞおちあたりが痛み、吐き気や嘔吐などの症状があらわれます。だんだん痛みが下がって行き、最終的には右下腹部の痛みとなり、発熱することもあります。近年は抗生剤による保存的治療も勧められるようになっていますが、重症化すると腹膜に炎症が拡がり重篤な状況になることがあり、手術が必要になります。原因は細菌が感染することによるものですが、暴飲暴食、過労やストレスが引きがねになることがあります。一般的には10から30歳代と比較的若い世代に多い病気です。
腸閉塞
手術創の癒着、腫瘍などによる腸管の狭窄、物理的な腸の捻れなどによって、腸管が極端に狭窄したり完全に塞がってしまったりした状態で、便やガスがそこから先に進まなくなることで、便秘、ガスが出ない、腹痛、吐き気・嘔吐といった症状があらわれます。イレウスと呼ばれることもあります。
腹膜炎
消化器などの腹腔内の内臓で起こった病気が悪化し、炎症が内臓外まで拡がって、内臓を覆って保護している腹膜まで及んでしまった状態です。虫垂炎、胃・十二指腸潰瘍による穿孔、虚血性大腸炎や炎症性腸疾患などによる大腸穿孔、腸閉塞などが腹膜炎を起こしやすい病気で、吐き気・嘔吐、激しい腹痛、発熱などがあらわれ、進行すると呼吸障害などが起こり、生命に危険が及ぶこともある病気ですので、すばやい対応が大切です。
平衡感覚に関わる吐き気や嘔吐
メニエール病
メニエール病は内耳の中にある液体(内リンパ液)が過剰に分泌されてしまうことで、内耳にある半規管、耳石器といった平衡感覚をつかさどる器官、音を電気信号に換える蝸牛などが圧迫され、激しい回転性のめまいによる吐き気や嘔吐が起こり、また難聴や耳鳴りもあらわれる病気です。なぜ内リンパ液が増えるのかの原因についてはまだ解明されていません。
適切に治療を行っていかないと、難聴や耳鳴りが進行・悪化してしまいます。
吐き気を感じる中枢を刺激する嘔吐
くも膜下出血、脳出血、脳腫瘍
脳は頭蓋骨の内側で硬膜、くも膜、軟膜という3種類の膜に守られています。くも膜と軟膜の間にはくも膜下腔という狭い空間があり、内部が髄液で満たされています。このくも膜の下にある血管が何らかの原因で破れることで、くも膜下腔にあっという間に血液が拡がってしまい、激しい頭痛や意識障害などの重篤な症状があらわれます。
脳出血は、脳内の細い血管が破れることで起こり、出血によって損傷を受けた部分によって症状は異なります。
脳腫瘍も腫瘍が生じた場所によって症状が異なります。
これらの脳の病気によって脳内の嘔吐中枢が刺激されることで、吐き気・嘔吐の症状があらわれることが多くなっています。
お薬の副作用
抗がん剤、医療用の麻薬であるオピオイド、心筋梗塞の治療薬となるジキタリス製剤(植物毒の成分の製剤)、気管支拡張薬の一部、鉄剤、女性ホルモン補充薬などは副作用として吐き気を起こすことがあります。
食中毒
食中毒は一般的に吐き気・嘔吐をともなうことが多く、生牡蠣などに多いノロウイルス、生肉のO157など一般的な食中毒の他、胃アニサキス症、生水中毒(特に海外で)など様々な原因による食中毒があります。一般的に、激しい腹痛や胃痛とともに吐き気・嘔吐、発熱、下痢などが主な症状となります。
ストレス(精神的嘔吐)
ストレスによって交感神経優位の状態になると、消化を促進する副交感神経の働きが弱くなり、吐き気などの胃腸症状を起こすことがあります。
吐き気・嘔吐・えずく症状が起こるときの検査
吐き気・嘔吐を起こす原因はここまで説明した通り、実に多様です。正確に原因を切り分けるため、丁寧に問診を行った上で、消化器に問題があるのか、それ以外の問題なのかを判断していきます。
ある程度切り分けをして、消化器に問題がありそうな場合は、胃カメラ検査や腹部超音波検査など必要な検査を行っていきます。
当院では胃カメラ検査の経験・知見ともに豊富な医師が苦しさに配慮した検査を担当しますので、安心してご相談ください。